厚生年金改ざん、従業員申請はすべて救済
厚生年金の記録改ざん問題で、長妻厚生労働相がまとめた新たな被害者救済案が5日、明らかになった。
従業員の知らないうちに記録を書き換えられたケースでは、給与明細書などが必要とされていたが、救済案では、本人からの訂正申し立てだけで認める。このため、対象は一気に1万人前後に膨らむ見込みだ。
そのかわり、悪質な虚偽の申し立てと判明した場合には刑事告発を行う方針。来年中にも実施したい考えで、虚偽申し立ての防止策に、法改正などが必要かどうか詰めを急ぐ。
社会保険庁によると、改ざんされた可能性が高いのは、コンピューターで管理する年金記録のうち、「保険料などの算定基準である標準報酬月額(9万8000円~62万円まで30等級に分かれる)が、5等級以上引き下げられた」などの条件を満たす6万9000件。内訳は8割程度が事業主・役員で、2割程度が従業員の記録だ。
このうち従業員に対しては従来、社保事務所の窓口で記録訂正を受け付けていた。ただ、給与明細書などの物的証拠か事業主の証言などが必要で、救済件数は500件余りにとどまっている。
給与明細や証言がなければ総務省の年金記録確認第三者委員会に申し立てる必要があり、これまで900件が第三者委に回されている状態だ。
新たな救済案では、標準報酬月額の引き下げが適正だったという明確な証拠がない限り、申し立てを認めて引き下げ前の状態に戻す。本人や事業主から保険料の追加徴収もしない。
しかし、虚偽の申し立てが発覚すれば年金の返還を要求し、悪質なら詐欺罪などによる刑事告発も辞さない。こうした方針を明記した書類に、本人の署名を求めることにしている。
年金給付は現役加入者が支払う保険料で賄われており、不正受給が増えると批判が強まることも予想されるため、刑事告発とは別の不正防止策の検討も急ぐ。
救済対象は、現時点では従業員に限られるものの、1万人前後に上るとみている。事業主・役員に関しては本人が不正に関与した例も多いとみられ、救済は第三者委の認定を条件とする方向で調整している。
〈記録改ざん問題〉
厚生年金の保険料は労使折半で支払われるため、不況などで経営難に陥った中小零細の事業主らが、保険料負担を軽くしようと、従業員の月収を実際より低く届け出たケースが多い。従業員からは月収に見合う保険料を徴収、その差額が運転資金に回された事例もある。社保事務所も保険料滞納額を減らし、徴収成績を高く見せかけられるため、事務所職員が事業主に虚偽の届け出を促した疑いが強い。
(2009年11月6日 YOMIURI ONLINEより)